ある運命について(司馬さん)

 恋愛というものを古典的に定義すれば、両性がたがいのなかにもっとも理想的な異性を見出し、性交という形而下的行為を介在させることなくーたとえなにかのはずみでその行為があったとしてもーその次元に双方の格調をひきさげることなく欲情をそれなりの芸術的諧律にまで高めつづける双方の精神の作用を言う、とでもいうほかない。しかしこんにちではすでにこのことは存在しがたく、恋愛小説そのものが成立しにくい分野にまでなっている。  27ページ  兵というものは、最初から兵であるものはいない。まず恐怖をあたえ、規律をあたえ、間断なくその両方をあたえつづけることによって、なまの人間からなにごとかを抜きとってしまうのである。一週間もすれば、頭が茫となり、俗世間にいたことが十年前であるような感じになる。  60ページ  「フルメタル・ジャケット」という映画の内容と同じですね。  国家とは極端にいえば架空の、すくなくとも形而上的存在なのだが、それが、法律と軍隊と警察力と歴史教育と道徳教育で、ときに個人に対する最も重い重責の現実として存在している。極端な場合、国家自身がギャング化して国民全体を人質に取りこむような場合もありうるのだが、そういう場合でも、国家は、国家とは何かということをたえず宣伝し教育していなければ、国家という実在感が国民の中から消滅しかねないようなあやうさがある。すくなくとも国家の支配者は、つねにそう思いがちである。  235ページ  ある国家の現状っす。  愛情を…

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藤沢周平

 このひとが書いた小説を自分が読むとも、思わなかった。  注目も栄光も浴びないひとりの人間を小説に求めることなどしたくもないし、それは、自分の人生で充分なのだ。  しかし、本屋をのぞくと、「一茶」という本があり、やばい、手にしなきゃ、的な気持ちが起こり、実際に会計にまで運ぶ。  幼少の頃、継母にいじめられ、江戸に出て、奉公をするもどれも続かず、しかし、俳句への情熱が彼を突き動かす。  だが、旅回りを続けた結果、大して芽も出なかった40歳の嫁なし、家なしという孤独な男性がいつの間にか登場する。  執着欲は残っていて、父の遺言であった(彼は長男)自分の育ったところで、田畑と家を弟と半分ずつにするということに意欲を燃やす。  それを、どうにか手に入れ、老いもはじまったころから計3回も結婚した。  また、違った欲望にも執着するようです。  長野の土地や、千葉の馬橋とか、知った名前が出ると感情移入がしやすくなります。  今後、この作家の本を読むか分かりませんが、これは、素晴らしかったです。  続いて、音楽のこと。  通勤時に、だいたい25曲ぐらいを往復で聴いているらしい。  10日で、250曲。  100日で、2500曲。  今、プレーヤーには、ざっと、15000曲が入っているので、およそ600日聴き終わるのに時間を要する計算になります。  休みなんかもいれれば、約2年をかけて、そのうちの1曲を聴く計算となることでしょ…

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年末や年始やら

 柴又の裏の方を散歩した時の写真でも、アップしとこう。  今年、最初に読み終えた本は、ポール・オースターの「幻影の書」  The book of illusions  現存している作家では、もっとも優れており、その人の最高傑作。  との評判ですが、間違いないでしょう。  本を読み進めるということは、こんなに楽しいものなのか、という感想です。    それを、こんな河原で太陽を浴びながら読んでいた訳です。  9日間を、もっと有意義に過ごす方法もあるのだろうが、意志とは裏腹に、行動する資金がなかった。  で、本を読む訳です。  それに見合うだけのものは得られました。  矢切りの渡しです。  観光地化されることのメリットとデメリット。  テレビでは、派遣切りにあった人たちは、一日の食費が500円で済ますと言っていた。  チャンネルを変えると、一品6,000円ぐらいのものを、奢りあっていた。  あいつら、派遣なんてやる気のない奴のあつまりだろ! という政治家先生がいたり、ある省庁の年間予算を計算したり。まあ、人生いろいろです。

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帰り道

 帰りの電車は遅れ、その分混雑している。なので、座席にすわり、長い道中を読書でまぎらわす。  多分、外回りをしている頃なので、7年ぐらい前に買った文庫がまだ家の中で読まれもせず、順番待ちだったので、それを最近になって読もうとした。  扶桑社ミステリー。「夜が終わる場所」  クールな文体です。アメリカ人って、不思議とタフガイぶるところがある。  そのP.319  「人生の中で人はときに、ある瞬間に、自分の失敗や至らなさが、有益に働くこともあれば、害を与えることもあるのに気づく。感情的な葛藤や、口べたな性格が、頭のなかでそのことばを何度もくりかえさせ、どれほど口に出したいかが分かっていながら、おれを黙りこませていた」  まあ、忙しくて無口で仕事をこなさないと、定時にあがれないので頑張っています。しかし、気楽な人も多くて、これこそ変えられない生き様なのでしょうか。  7時ごろに、一体テレビでは、どんなものを放映しているのかが分からなくなってきた。でも、もう週末です。  大自然の中で、大声を発したいとも思っています。都会の中で、やったら監獄行きです。そうでもないか。

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揺れる地面

 久々に二日酔い。  それでも、通常通りに起き、電車に乗る。身体の中に流れるのは、血液なのか、アルコールなのか。まだ、完全に酔っている状態。  本を読むのをやめ、座っているので目をつぶる。乗換駅で目を開けると、前には職場の同じチームの人が。いつから、監視されていたのだろう。  席に座り、数時間経ったら、気持ち悪さの時間差攻撃が。食欲がまったく湧かないので、昼飯を抜きました。  昨日は、急いで帰って、地元の居酒屋に10時に待ち合わせ。昼食後、なにも食べていないくせに、ビールのジョッキを二杯(一杯目は大)それから、焼酎をロックでたらふく飲んだ。  帰って来る途中も途切れ途切れの記憶。お金を払ったのかしら? 万札が18枚に減っているので(うそです)払ったのは、事実だろう。  いつのまにか朝になり、玄関を見ると。覚えてもいないのに、クレジットカード会社から送られてきた明細書の封も開けていた。さらに、いつかも分からないビデオ予約もしている。一体、なにを録るつもりだったのだろう?  まあ、酔う理由もあったのだ。×がひとつある友人が、×のひとつある数歳年下の女性(一児の母でもあった)と楽しそうな交際をしている、ということを聞いたもので。  と、昼休みも寝ようとするが、なんか落ち着かない。夕方には、回復傾向が。  さすがに夕飯時には、腹が減り、某牛丼店で大盛を。前には、5、6人の恐そうな兄さんたちが座り、なぜか一人の注文したものが来ていない。修羅場を覚悟したが…

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五輪と読書感想文

 北京で、来年の今頃、熱狂した観衆と鍛え抜かれたストイックなアスリートが見られるだろう。  一体、どんな人の活躍を期待しているのだろう。  その予習だか、または復習として村上春樹さんの「シドニー」を8月の1,2週の休みのうちに読んだ。  読み直した、という方が正しいのか。  記憶というのは、不思議なものでこの「シドニーでのオリンピック」が行われた7年前、丁度、沖縄を旅している頃で、中田がPKを外したことも、カーラジオで聞き、高橋尚子さんの勇姿を見たのもそこでだった。このオリンピックを振り返ると、その記憶に直結する。  読み直すと、地理的なことや歴史的なことの方に、より注意が向けられる。つまりは、スポーツのことは、一旦、外に置かれてしまう。  オーストラリアの成り立ち。その父親(けっこう息子に冷たい)でもあるイギリスとの関係。または、父親に反抗する兄(アメリカ合衆国)に気持ちがひかれる、という例えも面白かった。  なんだかんだアジアの国に組み込まれて行き、そこでの今後の成長が楽しみだとの結論。  (当初は、オーストラリアってアジア? と思うのは当然かも。サウジもアジア?)  それでも、胸を打つのは、ある女性が金メダルも取っていない少数民族(アボリジニー)にも関わらず、聖歌ランナーをしたという一部の批判を跳ね返すために、自分の競技で、自分の偉大さを証明しなければならない、という使命が生まれる。  そして、その彼女は活躍できたのだろうか?  …

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携帯写真

 試しに撮ってみたけど、写りはどうだろう。  イタロ・カルヴィーノさん。ずっと好きだが、まあ変化球投手のように変幻自在の文体です。  ネットの本屋さんで、送料が1,500円以上買うと無料になるために重ねて買った。  ちょこちょこ買いためたいのだが、河出文庫は割高のため、安いのを探した。冒険家のような小説家。登山を楽しむように、この人の作品の山を登りつめたい。  今日のGOETHE。  仕事場の横には、役員さんの部屋がある。朝には、信じられないような美味しそうなコーヒーの匂いが。その部屋には、これまた、信じられないような清楚な感じの秘書が。  今日、身体を動かしたく、忙しい中、地下の倉庫に重い書類を取りに行く。息抜きの一瞬。  台車に荷物を載せ、カードキーをかざし部屋に入ろうとし、左手で扉を開け、右手で台車を入れようと戸惑っていると、その清楚そうな女性がどこからともなく表れ、戸を押さえ、 「どうぞ」とスムーズに通れるようにしてくれた。  優しさって、なんだろう。  昔、打った篠塚。

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死の島

 人のブログの紹介で見て、福永武彦さんの「死の島」という本を読んでみようと思う。  個人的に、この人のかっちりとした文章が好きで、数々手にはしているのだが、当世の日本では評価が低いのか? どの本も絶版気味。なので、それをどう入手するかの旅からはじまるのだ。    ちょくちょく古本屋には出没するのだが、どこの店でも見当たらず、最近は便利な世の中、ネットの古本屋で購入。いつのまにか振込み用紙と共におくられ、早速入金。  そして、読み出すと、「あれ? なんだ! 読んだことがあるじゃん」という感想。意外ともうろくしているのね。  でもなのか、とうぜんなのか結末は覚えていず、最後まで楽しく読めました。が、去年の暮れから読み始めたものが、今頃になって終焉。長い旅でした。  この人のこころのなかの闇というか暗部というか、それが執拗なまでに書かれていて、結局は、簡単にいうと女性二人を比較して、どちらかに決めかねている、小説家希望の編集者の話、ということにすれば身も蓋もないけどね。  上下2巻で長いけど、暇な人は探して、見つけて、いつ読もうかと棚にでも並べてください。  読まれていない、家の中の書籍が、墓場のように主張してきています。困ったものだ。

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最近読んだ本

 「小説家が読むドストエフスキー」  加賀乙彦さんが、カルチャースクールで講義した内容(その文豪の3作品)をまとめたもの。  その中でも面白かったのは、性格の区別を書いた部分。  ドイツ人のクレッチマーの類型分け。  人間には、大まかに3つの区分けが出来るという説明。  1)分裂気質  2)循環気質  3)粘着気質  1は非社交的、被害的に考える。  2は社交的で自尊心が強い。同調的である。  3は相手との距離がない。べたっとくっついてしまう。  とのことです。自分をあてはめて考える人もいれば、それを知って、だからどうした、との反応のひともいるでしょう。   ちなみに、ドストエフスキーは3の性格のようです。  カルチャースクールで教えていると、物語を考える際に一般の人は、ストーリーありきで、そこに人間をあてはめようとするのに対し、プロは人物の造形をまず考え、そうすれば自然と、その人物がどっかに動き、問題を起こしたり、筋道が出来ていくそうです。  そして、「坊ちゃん」の狂言回してきな役割につながるとのことらしい。  また、宗教観と、善と悪との混在のような人物を抜きにして、ドストエフスキーを読むのは、楽しくないだろうとの意見があり、今度、長いのでまたいつ読むのか分かりもしないが、参考にしようと思います。

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ブック・カバーのブルース

 通勤時は本が手放せない。だが、満員なので、最近はただ突っ立ているだけの困難な状況なので、ままならず。  自意識過剰なわけでもないが、エコロジーの反対を走っている本の包装。そんなに何を読んでいるかなどお互い、干渉していないのかもしれないが、やっぱり、もろ出しにはいかない。  そんなわけで、こんなサイト。↓  http://www.webdokusho.com/sankaku/bookc.htm  サイズに応じて、ブックカバーを印刷できる。今日の昼間、会社のプリンターをつかって、一枚ゲット。A4サイズだと、文庫にあうよう。  

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普通って何?

 うちの母親が、カレーとかハンバーグとかのお子様定番料理のクック方法&味付けに問題ありだったので、(あれを下手に作る人っているの? とある女性に言われ、なんとなく納得)いまでも、別に食べなくてもいいかな、と思ったりする。  結局、家庭料理って洗脳でしょう、と定義付ける。弁解をすると、料理自体は上手でした。マーボー豆腐とか、鳥の唐揚げなんか最高傑作の部類に入ると思うけど。  でも、外食すると、カレーとか、ハンバーグって、イチローの内野安打並みに食い込んでくる。長いネタフリをして、今日、グリーンカレーというのをちょっと油断して食べたという話。  色からすると、そんなにだろう? と甘く見てたら、なんだ!辛いじゃんか。もっとマイルドかと勘違いしていた。  それにしても月末って忙しい。昼休みには、眠気をこらえて「ラッキー・マン」というマイケルJフォックスの本を読み始めた。若くして、パーキンソン病になってしまった人。我が青春期には、「ファミリー・タイズ」というテレビ番組に秘かに熱中した。もちろん、バック・トゥ・ザ・フューチャーという名作もある。  出だしのエピソード。小さなマイケル少年は、子供の頃、引越しが多く、その先々で両親が荷物を解いているのに外出してしまい、戻ってくる。その愛想の良い少年を先に知った近所の人は、「あなたがマイケルの母なの?」とお母さんに後に語りかけるそう。もっと後に彼が有名になって、「あなたがマイケルの母なの?」とお母さんは言われ続けたとのこと。  実…

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都会にも

 久々に見たカマキリ。  足元を見ながらも、「観察力と表現力」ということを考えている。この能力を所有しているのは、画家という結論に達する。  彼らの、その観察力は文章でも発揮されるのかと、少しの心配を胸に抱え、本を探す。探せばやっぱりあった。  一人は「小出楢重」さん。最近この人に注目している。(とっくにこの世にいない方)大阪で谷崎潤一郎の挿絵を描く。その作家いわく、座談の名手、との評がある。  理想的な日本語の文章とは、こういう簡易な表現のことを指すのか。いま、普通に使われている、ややこしい、うっとうしい、しんどい、はでな、等々はもともと関西風の言葉で日本の標準語のなかに入りそうもない、と書いている。だが、我々は普通に使っている。時代は変わるものだ。  また、彼の絵をきちんと見たくなった。  今度は、「鏑木清方」という人の文庫。今年の2月ころ鎌倉にバスで行ったが、その途中に自由行動があり、皆とこっそり離れ、この方の美術館に入った。静謐というような形容をしたいほど、しんとした空気がみなぎっていた。さらっと読んだが、こちらもきれいな日本語。それも東京方面の。ともに岩波文庫から出ていた。もう絶版か? 不明です。  とにかく、一芸に秀でると、他の分野でもそこそこ以上にやってくれます。素晴らしいプレゼント。

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タイムトラベラーズ・ワイフ

 タイムトラベラーズ・ワイフを読む。上下巻。けっこう長い。  主人公は、ストレスを感じると自然と時間の中をさまよってしまう。といっても、行くのはアメリカ国内の自分の住んでいる近辺のみ。  時間を移動するときには、服を持って行けないらしく、彼が去った後には脱いだ服が。彼が行くところは、素っ裸で表れる。  あまり幸福でもない両親のもとを訪れたり、結婚する相手の幼少時を見たり。でも、行った先々でトラブルに巻き込まれるので本人は、あまりその行動に納得していない様子。  好きな人の子供の頃とか、青春時にちょっと興味があったり。  英語って複数形があるよな? 「時間旅行」ってどうだろう。タイムズ・トラベル。タイム・トラベルズ。タイムズ・トラベルズ。分かんなくなってきた。  前に、読んだ「リプレイ」とか「透明人間の告白」も面白かった。だが、SFっぽいのは少し苦手だが、この辺までは受容範囲。  本は、ここまで。  帰りに飲食店によると、店内にいる4人の男性すべてが、自分を含めて眼鏡をかけていた。外国人のイメージする日本人観。5人目のお客さんが入ってくるのを感じ、振り返ると、やっぱり眼鏡をかけていた。続いて、6人目は? やっと釣りが好きそうな色の浅黒い男性は眼鏡をしていなかった。なぜか安心。  外国人と不和のある関係。誤解がまかり通る世の中。自分と違う国の人を、どう見るか?  最近手にした「にっぽん虫の眼紀行」という本を中国人の毛 丹青(マオ タンチン)さんが…

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リリー・フランキー

 リリー・フランキーさんの「東京タワー」を読んだ。  メガ・ヒットに抵抗と警戒心のある自分。でも、そんなことは取り越し苦労だった。一時期の熱も冷めている頃に、優れた本を読むのは本当に楽しいもんだな。ブームって、なんか恐ろしい。  読む前は、父親が他界して親子ふたりの話かとおもっていたら、ただ別居していただけだった。中味は、とてもソウルフル。魂が詰まっています。  誰も、母親という存在は、面と向かうとやっかいで、逃げたくなっちゃうような厚い関係で、困るけど、ここまで正直に書いた本もなかなかないよな。マザコンと簡単に片付けるシンプルな頭脳の持ち主は無視しても。  自分も数年前、病院に入院している母を見舞った。チューブやら管やらにつながれて(スパゲッティ症候群と命名されているらしい)その姿にショックを受け、自分でも驚くほど落ち込んだけど、そのことをある知り合いの女性は理解を示してくれなかった。そうしたことが溝になり、こころも離れていくんだろうね。    自分も、他の人の気持ちを汲み取れないこともたくさんあるので、お相子だけど。  でもさ、その母親という人がいなかったら、自分も存在しないというある種の宗教的な観念もあり、28年×365日×3回という食事の実務的な感謝もあるし。ご飯のすべてを家で食べるわけでもないけど。  その時の手術は上手く行ったようだけど、だいぶ経ってから身体がまた痛くなったらしい。手術のミスで、体内に何かが残っていたみたいだ。病院は、こんなニュー…

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読書感想文

 夏休みを終える頃、宿題でとくに嫌だったのがこれ。何を書いていいやら。どこをかいつまんでまとめてよいものか、全く分からず苦痛の連続の日々。  そんなことも、はるか遠く昔になった今日、そんなに苦痛を感じることもなく読んだ本のことを書ける。  およそ20年ぶりぐらいに、夏目漱石の「こころ」を読む。通勤地獄のなかで、この本に夢中になっている30代がいるなんて予想がつくだろうか。  若者が、(学生を書生と呼んでいた頃)ある男性と知り合いになり、(漱石さんの小説の主人公は度々、仕事をしないで瞑想をする日々を送る。若い頃、感化されそして憧れた)その人の、消極的な生活に関心を持ち、立派な思想を持っているのになぜ世の中に出ないのか、若い好奇心が、その答えを求める。  二人に自然なかたちで交友ができ、それを深めていく最中の話が前半で、盛り上がりは、後半の先生の手記にあります。    その若者が学校を卒業し、具合の悪い田舎の父の看病に戻り、その先生から大事な手紙が届く。その秘密の内容を知ってしまう喜びと恐怖。自分宛に、こんな深い手紙がきたら困ってしまうけど。  その圧倒的な絶望感(先生と親友のわだかまりか偽り)に20年前の自分は、すっかりいかれてしまったけど、今の自分はその上手い文章の道筋を感心しながら読み進める。そして、本郷とか上野や、その近辺が舞台なので、そののどかな舞台にも思いを馳せる。秋になったら、雑司が谷の墓地でもぶらぶらするか。  毎年のように夏休み前に本屋の店頭に…

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書評24

くそったれ、美しきパリの12か月  イギリスの男性が海を越え(トンネルを抜け)紅茶のチェーン店を作ろうとしているフランスの会社に引き抜かれ、一年弱のあいだ上司や同僚や、道に落ちているものと奮闘する物語。  その間には、狂牛病の問題や、各国のリーダーの戦争への挑み方や捉え方が、注目されたり。  時には、文化の違いがクローズアップされ、イギリスの食文化が改善されたり。フィッシュ&チップスより美味しいシーフード料理を選んだり。サラダのドレッシングにこだわったり。考え方の相違に立ち向かったり。日本から見て、あんなに近い国なのに、その差が新鮮さと偏見とにまみれた面白いストーリーになっている。  近い距離で、なぜあんなに飲む酒も違うんだろう? ワインやビールや、他の国でもウオッカやスコッチや。またフランスの食事になれていく男性が一時帰国した時に、自国の食文化に疑問をもちはじめる。そして咄嗟のときにうまく言葉が出ず、はたまたフランス訛りの英語になってしまったり。  ところで、この主人公のスタンスは、ブリジッド・ジョーンズの男性版のような気も。こういう軽い風味のノベルは、力を入れずに読めます。  なんか、これを読んだらビートルズの音楽が聴きたくなり、ノー・リプライの入っているアルバムを聴いた。なぜか、今回はポール・マッカートニーのベースラインに注意したが、あまりよく聴きとれなかった。後期は、モータウンの名ベーシストの影響が大きくなっていきますが。  この前テレビで見た「マ…

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アタッ~ク・チャァ~ンス

 夏を忘れるぐらいクーラーの効いた部屋で、アタック25を見ている。  その中でのクイズ。視力検査のときに使う、「C」。右向きだったり、上に向いたりしている。こんなマークにも名前があったのか?  正解は、「ランドルフ環」「ランドルト環」その後は、司会者の名口調。博多華丸さんじゃない。  別の質問は、エドガー・アラン・ポーの小説に出る名探偵は?  あれ? なんだっけ? そう、デュパン。正解。  いま、ちょうど、「深夜の散歩」という本を読んでいた。福永武彦、中村真一郎、丸谷才一さんの三人のミステリーについてのエッセーが収められている。とくに前者2人の小説は大好きなので手にした。福永さんの生硬な生真面目な文章が、ぴったり心にはまるので大分読んだが、現在の人がどれだけ知っているかは不明。  その中で丸谷さんの最後の方の文章が面白い。結構前に書かれた内容なので、CIAとかスパイとか言って、結婚サギを働く人がいたとのこと。  そこで、詩人の田村隆一さん(ミステリーでも翻訳したものがありますよね)が、スパイだからモテルのではなく、にせものだからもてるという論をだす。  その詩人の言葉の引用。  言葉なんかおぼえるんじゃなかった  日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで  ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる  その詩人のにせものということで、広告の文句を書く人があげられている。  でも、丸谷さんは「クシャミ三回ルル三錠」が浮かぶのも奇蹟に近いと言…

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ボク・スウィング

 ビッグ・マウス・ファミリーの拳闘試合のテレビを見ることを恐れ、他チャンネルにしている。誰が、こんな日本を作ってしまったのだろうか?  巨人の4番の働きを見ると、なんだろう? あの武士的ないさぎよさは。この島国は衰退してしまうのか。  せめて日本語だけでも、きちんと残って欲しいな。漱石の「道草」を読む。養子のように育った男性は下の家族に戻ったが、幼少時代に世話になった養父に大人になってつきまとわれ、金銭も要求されたりする。それを土台として、兄弟や夫婦間のぎくしゃくも描かれている。  恋愛結婚というものが当然の世の中で育った自分でも、この明治時代の結婚に抵抗がないのはどういうことだろう? どっちにしろ問題の大小は、どこにでも存在するものだとの認識もあるからかな。  「塵労」という言葉を漱石は使う。そのような世の中の淀みのような避けえないものが丁寧に描写されている。  若い頃に読み始めて、途中で投げ出した記憶があるが、今回は上手く読みこなしました。ついこの前、「虞美人草」は、会話のみ(多いだけ)の内容で半分あたりで終了です。根気がないものです。  この美しい日本語でさらに、手元に小説を差し伸べてくれた男性が、イギリスに留学して英語に囲まれていたことを不思議に思う。なにか言語には、分からないテクニックがあるのだろう。土日もぼうっとしてないで外国語でも、真面目に学びたい気もする。若い頃、アメリカでも行っておけば良かったかな?  仕事場所が変わり、15分ほど出社時間…

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Age

 仕事をしていて、暇つぶしの会話。「昨日のドラマ見た? 伊東美咲の…」  「見たよ」  「三国連太郎の子供の娘役、なんかあったの?」  と普通の会話のつもりだが、この辺で年が出る。なんでズバリ名前が出てこないんだ!そうですよね。佐藤浩市さんだったか。いやあね。  といいつつ、髭を丁寧に剃り、新しい職場に備える。そんなにこだわりもなかったのね。  新たな職場にいやな人がいるのかな?  と、思いこんな良い言葉。  彼は、この世には悪人が存在することを心ならずも認めている。  そして悪人に対処するには、彼らもまた人間であり、生きてきた環境によって欠点を与えられた無力な被害者であることを忘れてはならないと言っている。  「誰が文明を創ったか」という壮大な本。PHP研究所から出版されている。その中のマルクス・アウレリウス・アントニヌスという古代ローマ人の言葉。  葛飾方面の我が家は、千葉テレビが映り、たまに良い番組がある。旅行番組が好きなので、外国の風景が映し出されれば満足なんだけどね。昨日のNHKのセーヌ河もよかったな。ゆっくり美術館めぐりをするのが夢なんだけど、暇とマネーが生き別れた親子のように縁遠い。まあ、頑張ろう。

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仕事だっつーのに

 こんな写メが来た。    凄い景色のいいとこじゃん。一体どこだよ! そうか巷は三連休か? もう!  この知り合い、酒飲みのプロ。ぼくより先に酔ったことがない。自分のアマチュア差加減に気付いてしまう。  でも、休日に仕事に行くため、電車に乗ると、ゆっくり座って本が読めるので、そんなに嫌でもないんだな。  今日は、「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を読み直す。旧題名、ライ麦畑でつかまえて、です。かれこれ5回目ぐらいか。  すべての素振りがホームランにつながるように、(なんのことやら!)すべての行為が思い出につながる。最初に読んだときは、ジーンズの後ろに本を突っ込み、母校(中学)の先生に会いに行った。この担任でもあった先生は、本当に良い教師だった。すべての授業を終え、放課後、担当は数学なのに、英語も教えてくれた。また、それが上手かった。自分の学校に来る前の生徒にサッカーの北澤さんがいたということ。ぼくもスポーツをしていたが、彼より恵まれた体格を持っている、と言われた。でも、片や日本代表にもなるガッツの持ち主だしね。  この本は、ジョン・レノンを撃った犯人が、読んでいたとかで注目も浴びてしまう。ぼくも最初に読んだ頃は、悩める青年だった。でも、現在は、ユーモア小説のようにも読むし、ただこういう主人公を造形した作者に恐れ入る。また、数年経ったら印象も変わるでしょう。

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書評(23)

プールサイド小景・静物  新潮文庫に入っている庄野潤三さんの本。第32回の芥川賞受賞作とのこと。  この小説は、静かに冷静に声高になることなく、正確な筆致。そして、とても美しい。読んでいると、爽やかな時間が過ぎ去る。世の中と充分に距離をおくことも可能。  それから、この人の本を探して読む。「ガンビア滞在記」という留学時の話や、 (きちんと装丁されなおしたバージョンが本屋に並んでいた)自分の家族のことを綴ったエッセーのような小説のようなものも楽しく読む。  特徴は、この人の対象に向けての暖かな愛着ある眼差し。突き放したり、批判的な言動などもない。多くの世の中にありふれている悪意などからの逃げ道のように感じて読み入ることもある。耽溺です。  まあこうしたものから影響を受けて、少しでも愛ある視線を作り上げていきたいな。でもな、ちょっと無理っぽいかも。

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豆腐より固くて白いもの(22)

心変わり  ミシェル・ビュトール作, 清水 徹訳の岩波文庫に入っている本。  原文なのか、訳の技術なのか、現在では、こうした文章に強く引き付けられる。対象に、ある種の敬意と距離と愛着を感じさせる。  きみ、とある女性を目の前に提出し、その女性への定まらぬ視線で、物語を綴っていく。  一度、読んですぐ理解できる内容ではないのかもしれませんね。というより、何度も景色を楽しむように、理解というか道のりや歩いていること自体を愉快に感じるように、この小説の中味に浸って、泳ぎきるような気持ちが正しいのかもしれません。  2005年11月に日本で出版されたようですが、本国では(フランス)’57年頃に出されたようです。値段は¥900と税。 心変わり

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豆腐より固くて白いもの(21)

されど われらが日々―  柴田 翔さんという方の本。詳しく知らないが、第51回芥川賞受賞と本の裏に書いてある。  久々にかっちりとした日本語を読みました。ある婚約中の男性が、ある本を手にしたきかっけで、その古本の前の持ち主を知り、ひょんなことから学生時代の友人たちの熱い思いを知ってしまうような内容。  それに伴い、その結婚を望んでいる女性の意志も、また別の方角に行ってしまう。  その頃の特徴なのか、また文章という形式のためか、友人たちが自殺をして、遺書(長文)を残すというところに、過去のよさでもあり、また映像的に見せられない現実(批判ではない)があります。  ぼくも、たまたま古本屋で最近見つけ、読みましたが、手にするのは困難かもしれませんね。まあ歴史に埋没する運命なのかもしれませんが、こっそりここで救いあげようと思いまして、書いてみました。  偉そうですが、本意は読んで楽しかった、というのが素直な気持ちです。  この後、ネットで調べると、ゲーテの翻訳などもする偉い独文学者でもありました。

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飽きっぽい

 本を読むのが好きだが、なんせ飽きっぽい。  数冊を同時進行にし、とっかえひっかえ読み散らかす。別に、こんがらがることもなく、今までやってきた。  司馬遼太郎さんの本郷についての記述を読み、また漱石の「三四郎」を読み返している。  凄いですね。これぞ、文豪の味です。そんなに大層なものでもないかもしれないが。女性に振り回される三四郎。ぼくも、彼女たちの気持ちが謎です。  これと並行して読んでいるのが、「未亡人の一年」というJ・アービングの本。  「ドア・イン・ザ・フロア」という映画の原作でもあります。映画は、上巻のはじめの方を使っているのね。これから読むのは、映画にない部分ですが、これまた面白い。  映画では、キム・ベイシンガーが素敵です。オスカーさんを手にした「LAコンフィデンシャル」も、もちろん最高です。

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豆腐より固くて白いもの(20)

夜半楽  中村 真一郎さんの本。  過去の記憶の亡霊に取り付かれ、やがてその記憶に追いつかれ復讐される話。  主人公の思いが焦点なので、対象の時空が、あちらこちらにずれます。それでも、物語として完成されています。  一つのことを考えていても、過去の記憶を頼ったり、分析したり、反省したりするもの。だが、それを未来につなげようとけな気な努力をこうじてみたり。  それが、未来につながらないと知ったショック。観念的な話ですが、この題材がそうなので、こんな形でしか説明できません。  これも絶版です。どこかで見つけたら、本が好きな方は読んでみましょう。

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豆腐より固くて白いもの(19)

巴里に死す  芹澤光治良さんの著作。  病気になった母の日記を、読む娘。もう既に亡くなっている。そこには世代的なギャップが入り込み、旧体制の女性をあまり深くのめり込めない、理解できない娘。  いちいち細かい点についての描写が面白い。  まだ洋行という言葉が似合う船での旅。進路の途中での、シンガポールで小銭を海面に投げる。それを拾ってくる現地の子供。この母が、新婚当時を振り返り、調子に乗って自分もやってしまった過去。そこに不機嫌になる夫。はじめて見る夫の嫌悪感が表れた顔。  こうした様々なずれについて書かれている部分に、はっとすることが多いです。  そして、とても美しい日本語。また、しばらくたったら読みたいな。    

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豆腐より固くて白いもの(18)

意味がなければスイングはない  村上春樹さんの音楽についての記述。  「ステレオサウンド」という雑誌に連載されている時、立ち読みでウディ・ガスリーのところを数ページ読んだ。まとまったら(本という形に)買おうと思い、金曜に買って土曜に読み終わる。なんかこう早く読んじゃうともったいないな。  数人のジャズマンと、クラッシックのピアニストと、ロックの人と、スガシカオさんについても書かれている。  はじめにシダー・ウォルトンが出てくるあたり、読み手を度外視しているのか、敬遠しているのか。でも売れちゃうんでしょうね。  ウイントン・マルサリスの音楽についての長年の疑問にも解答が。その通り。胸のすく思いが。  ぼくの聴く、シダー・ウォルトンは、「Blues For Myself」というソロピアノ。CDの盤面には95年とある。なんか馴染んだ手袋のように、指先というか心の隅々までしっくりいきます。でも、日の当たらない感じがします。  やっぱりブルース・スプリングスティーンは「ネブラスカ」ですよね。あと、「フィラデルフィア」のサントラの曲もよかったな。

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K-zaiの本

 思い出から。18才ぐらいだと思う。’87年か。  友達の家に集まる予定で、酒屋に買出し。その時には、やはりアサヒのスーパードライではなくてはならなかった。でも、まだ売り出してから、そう月日は経っていないはずだ。  いままでのビールと、はっきり違っていた。それ以前のは、なんかだるかったのだ。  ここまでが導入。説明したいのは、樋口廣太郎という人の書いた「人材論」という本。  経歴が凄い。住友銀行副頭取からアサヒビール社長。  内容は組織内の役立て方等、よくあるビジネス書かもしれませんが、もっときちんと濃い内容です。いままで、ヒット作、また継続して売れるビールがなかったところに、筋のはいったビールが誕生します。なぜでしょう?  とりあえずビールの時に、なんとなくこの銘柄をイメージしてしまっているような。  最近は、ゆっくり腰をすえて飲みたいビールも出てきています。これからの季節はとくに。

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スタンダード曲(53)

September Song  クルト・ワイルの曲。  あ~あ、人生もとうとう9月になっちゃった。  残されているのは、短い月日。  そろそろ、我が商店の店仕舞いをしようかな。そっと君と。  「旅愁」という映画で使われる。ジョセフ・コットンという俳優はなぜか淋しげ。  この曲をジョン・ルイスがシンプルに演奏する。音を最大限、間引いてもこの曲が成立している。不思議ですね。静かに、静かにスイングします。  もっとメローなのが、チェット・ベイカーの歌なしで、トランペットのみ。いくらかムード音楽になってます。 「ジャズ・ヴォーカル抱擁旅行」という北村公一さんの本があります。フランク・シナトラのレパートリーを綴ったもので、この曲もとても丁寧に愛着をもって書かれています。

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豆腐より固くて白いもの(17)

アシスタント  バーナード・マラマッドというアメリカの小説家。なぜかユダヤ系とことわりをいれてしまう。  生活を建て直す話。多少の犯罪をおかしても、あまり迷惑にならなければ良いみたいな風潮があるかもしれませんが、(どこに?)この小説の主人公は改心し(そんなに大袈裟でもないが)泥棒に入った店に戻り、働こうとします。  この作家の、暖かい視線に夢中です。結局、こうした人間性への信頼みたいなことを期待して読みたいんだろうね。  絶版なので、足を棒にして古本屋か、図書館で探すしかないかもしれない。  ついでに、この時代の小説って、空調がないような一種、息苦しさみたいなものがあります。

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